御伽草子
いっそ、途絶えてしまえばいいのに、そう思った。
見届ける側よりは、見届けられる側の方がどれ程楽か。
所以、抵抗はしなかった。
恐れおののいたわけでも、諦めた訳でもなかった。
あるのは決した意のみ。
瞼は閉じていた。
呼吸は遮られてはいるものの、意識が途絶えることはなく、私は、その手の、その筋肉がこわばっていく感覚に悦し、瞼の向こうのあなたを思いなぞらえていた。
なおも私の呼吸は遮られていた。
じわじわと。じわじわと。
それは痛いとか苦しいとかそういった類の感覚を優越していた。
私は、もう苦痛さえ感じることも出来なくなっていたのだろうか。
不思議と私の意識はとおのくばかりか、よりクリアーに冴えて活動し、素晴らしく感覚が研ぎ澄まされた。
そして感じた。
空気が流れる音を、
闇を、温もりを、この部屋の匂いを。
あなたの力を、息遣いを。
挙げ句、あなたはその手を弛めた。
意識せずとも体は空気を欲し、深く息を吸い込んだ。
狭まったきどうに空気が入り込みかすれた音がした。
息苦しさは暫く続いた。
研ぎ澄まされていた感覚は、呼吸をする度に鈍くなって、私から遠ざかる。
空気が流れる音が、
闇が、温もりが、この部屋の匂いが。
あなたの力が、息遣いが。
何もかもが半透明なフィルター越しの様で、私は完璧に隔たれていた。
あなたが、ふたりで共有した時間、空間、交した言葉も全てが、
つまり私が世界と認識していた世界が、私を認めてはいなかった。
あなたが自分勝手な計画を私に打ち明けたあの瞬間。
私は悲しくて仕方がなかった。
あなたに失望したわけでも、軽蔑したわけでもなくて、ただ、私が希望になれなかった、それが残念で仕方なかった。
私にとってあなたは充分それに該当したのに。
あなたにとって私の存在価値など、大したものではなく、ただ少しだけモノクロの毎日に色をさすような、そんな安易な存在でしかなかったと云うことが悲しかった。
あなたは、これからを描きなが過ごす私の隣で、いつも終りを思っていて、
そして、自分の幸せ、自分の立ち回りだけを考えていたことが、
悲しかった。
身勝手なのは私の方かしら?
生きるってそんなに無駄な行為なの?
あなたを攻めることなど私に出来ましょうか。
そんな風に夜を過ごし不本意にも向かえてしまった夜明けの、
その後を本気で楽しむことができるましょうか!
心から笑うことができるましょうか!
微かに残る痕と生き苦しさを感じながら悟った。
あの日、確かに私の一部は死んでしまった。
確実に。